2005/6/3
Chance Encounters (6)

それでこそ友達
That's What Friends are For


Davesmom
(translation by Nessa F.)

言い訳をするな。友には必要ないし、敵には信じてもらえない。

―― Belgicia Howell


友達はきみが動く手助けをしてくれる。本当にいい友達はきみが死体を動かす手助けをしてくれる。

―― 出典不明(少なくとも作者にとっては)




 ジニーは図書館の一番奥近くのテーブルに陣取って、羽根ペンと羊皮紙を広げていた。薬草学の教科書も開いていたが、ジニーはただ呆然とそれを見つめることしかできずにいた。今日もまた、薬草学の宿題はちんぷんかんぷんだ。ドラコ・マルフォイに助けてもらうこともできない。だって、彼はもう図書館に来なくなってしまったから。そもそも、助けを求めたりする気はないけれど。最後に口を利いたときの彼は、陰険で無礼だった。それだけじゃない。彼は休暇が終わってジニーが学校に戻ってきてからも、かれこれ一ヶ月間、話しかけて来ない。廊下で会ったときでさえ。友人のボブが言ったことを思い返して、ジニーはボブが正しいと実感した。結局のところ、損をしているのはマルフォイのほうなのだ。ジニーは別に、マルフォイと一緒に過ごす時間がなくたって、困らないのだ。少なくとも、ジニーはそう自分に言い聞かせていた。


 ほかの宿題はみんな片付いたし、薬草学はにっちもさっちも行かない状態だったので、ジニーは持ち物を全部バッグに詰め込んだ。どっちみち、もう戻る時間だ。しかし立ち上がろうとしたとき、馴染みのある声が耳に届いた。


「薬草学で挫折? まったく、薬草学が分からないなんてのは、どこのどいつだ?」


 ジニーは椅子のうしろに立っている背の高いブロンドの少年には、ほとんど目をやることなく、机から身を離して立ち上がった。バッグを抱え、長い三つ編みを肩から背中のほうへ払うと、彼のいるところを迂回して戸口に向かう。


「そうかい、そういうつもりか、ウィーズリー? ちょっとした言い合いを一回しただけで、いきなり無視か? 分かったよ、ウィーズリー。勝手にしろよ」


 ジニーは相手をせず、そのまま歩きつづけた。


「おいおい、おチビ」
 彼はうしろから追いつき、肩を並べて歩きながら言った。
「そんなに怒ることないって。まあ座れ」


 これは、以前ジニーがドラコのことを、すごいうぬぼれやだと笑ったときに、ジニーが彼に向かって言った言葉と、ほとんど同じだった。ジニーはまだ休暇の前に彼が悪意を爆発させたことを怒っていたが、それでも口の端が緩んで笑いそうになるのを自覚した。立ち止まって、自分の横に立つ長身の若者を見上げたジニーは、ほかの生徒たちが手で口元を隠して何やらささやきつつ、ふたりを見つめていることには気付いていなかった。


「そんなに怒るなですって、マルフォイ? あなたがわたしに向かって、大人になれだのもっと関心を持ってくれるやつに聞いてもらえだのと怒鳴ったことを悪く思うなって言いたいの? そもそもわたし、何も言うつもりなかったのよ。なのにあなたが、私が口を割るまで何度も何度も訊いてきたんじゃない。それで癇癪を起こして当たるんだったら、訊かなきゃよかったでしょ!」
 ジニーが見上げると、彼は呆れ顔でぐるっと目を動かしてみせた。


「参ったなあ、おチビ。まだあんなことにこだわってたのか? まったく、きっときみは、ぼくが謝るまでずっとうだうだ言いつづけるつもりなんだな? 分かったよ。怒鳴って悪かったよ。実際のところ、ぼくは大声は出していなかったんだがな。ほら、これで満足か? あーあ、ぼくたちは友達だと思っていたのに。そりゃぼくは自分が友情問題の大家だと主張はしないが、でも友人同士というのは思ったことを口に出しても、くよくよせずにすむものじゃなかったのか。ちくしょう、ウィーズリー。きみはぼくのことをしょっちゅう、高慢ちきでうぬぼれやのロクデナシと呼ぶじゃないか。それでぼくがしつこく怒ったことがあったか、どうだ?」


 ジニーはまたしても、自分の唇がぴくぴくと動いて笑いそうになるのを感じた。
「わたしがああいうことを言うのは、誰かがあなたを謙虚にさせようとしなければいけないからよ、マルフォイ。わたしがいなければ、きっとあなたは膨れ上がったプライドのせいで、ドアを通り抜けることすらできないわ。それにね、あなたがどんなにロクデナシかを教えてあげたのと、あなたがわたしのことを、"くそ忌々しいほどに恵まれているくせに、自分がいかに可哀想かなんてことをめそめそと" 言ってるとかって責めたてたのとは、別の話でしょ」


 ドラコはあからさまに考え込んだ表情で、眉間に皺を寄せてジニーを見た。


「つまり、きみがぼくを侮辱するのは、公共精神に基づいてのことだから、ぼくは気を悪くしてはいけないと? そう言いたいのか?」


「まあそんなところよ、マルフォイ」
 ジニーは胸の前で腕を組んで、皮肉っぽく微笑んだ。
「いくらあなたでも、この違いは分かるでしょ」


 ドラコの唇もぴくぴくと動いていたが、彼はそれを隠そうとした。
「まず第一にだな、おチビ」
 やがて、彼は言った。
「"くそ忌々しい" なんて言うな。きれいな言葉じゃないし、きみの口から聞くと、とにかく違和感がある。第二に、きみは正しい。たしかにこの二つは別の話だ。でもだな、蒸し返すようだが、ぼくたちは友達じゃなかったのか」


 ジニーは、今初めて見たとでも言うように、ドラコをまじまじと見た。ドラコ・マルフォイが、わたしに言葉遣いを注意するですって? さあ、これは可笑しい! ジニーはクスクス笑いを抑えようとした。本気で抑えようとしたのだが、どうにも無理そうだった。それを見ていたドラコは、二つの感情に引き裂かれていた。またしても笑われている。この小柄なグリフィンドール生は、いつもドラコのことを笑いものにしているような気がする。しかしその一方で、もはや彼女は、顔全体を怒りに歪めて戸口を駆け抜けようとしたりはしていない。これはよいことだ。


 精一杯の横柄なニヤニヤ笑いを浮かべて、ドラコは言った。
「ぼくが何かおかしなことでも言ったか、おチビ?」


 微笑んで、ジニーはうなずいた。
「よりにもよって、あなたがわたしに言葉遣いを指図するなんて、神経を疑うわ! わたし、あなたが言ったことを繰り返してただけなのに。それに、わたしたちが友達なんだったら、どうして一ヶ月も話しかけてこなかったの?」


「きみこそ、どうして一ヶ月も話しかけてこなかった、おチビ?」
 ドラコは言い返した。
「会話というのは、相手がいてこそ成立するものだよな」


 独善的だわ、とジニーは考えた。今の彼は、とんでもなく独善的なかんじ。
「どうしてかというと、被害者はわたしだったから。あなたのほうから、先に折れてくるのが筋だもの」
 ジニーは顎を上げて宣言した。


「たった今、ぼくがしたことはなんだ、ウィーズリー? これで思ったとおりだろ。ぼくは謝罪した。ぼくのほうから先に折れた。まだ何か、今のうちにぼくに言っておきたい、ちょっとしたあれやこれやはあるか? これ以上、周囲の注目を浴びずにすむように、そろそろ図書館のど真ん中から移動したいんだが」


「そうねえ、わたしのこと、おチビって呼ぶのをやめるのは、今からでも遅くないわよ。そうしてくれると、嬉しいわ」


 ニッと笑って、ドラコは首を振った。
「悪いな、ウィーズリー。しかしたとえきみでも、何もかも思いどおりにするのは無理だ」


 ジニーは、ついつい微笑み返してしまった。彼は、とんでもなく相手に伝染しやすい微笑み方ができるのだ。そういう顔はめったに見せないけれど。ドラコの言葉とは裏腹に、少年少女のどちらも、自分たちがどれだけ周囲の注目を浴びているかということには無頓着だった。


「で、あなたがその素晴らしい笑顔をわたしに向けたということは、わたしはあなたのその、疑問の余地のある魅力ってやつにやられちゃって、あなたが我慢ならないロクデナシだったことを許してあげなくちゃいけないのね? そういうことなの、マルフォイ?」


「きみがぼくの魅力や容姿に "やられちゃう" ことなんて、天地がひっくり返ったってあり得ないさ。それくらいはぼくにも分かる。しかし、我慢ならないロクデナシだったことを許すという件について言わせてもらうならだな、それでこそ友達、だろ?」


彼は片手を伸ばしてジニーの首をうしろから包み込み、自分のほうに引き寄せた。
「そして、ぼくたちは友達だ。分かったか、おチビ?」


 ジニーはため息をついたが、それでも明るい笑顔を向けずにはいられなかった。
「そうね、マルフォイ。そう言ってしまえば、そうなんでしょうね」


「よし!」
 ドラコはジニーから手を放して言った。
「さて、おチビ」
 さらに言いながら、手振りで机のほうを示す。
「いったい今度は、薬草学で何が分からなかったんだ?」









Belgicia Howell
引用句の原文は、"Never explain yourself. Your friends don’t need it
and your enemies won’t believe it."
ネット上で検索すると、けっこうたくさんヒットするので、かなり知られた言葉の
ようなのですが、発言者の Howell さんは、この名言の作者としてのみ有名で
あるらしく、そもそも何者なのか、この言葉がどこから取られたものであるのか、
ということを説明してくれているページが皆無です。この一文だけが世間を
一人歩きしているような。ご存知の方いらっしゃったら、ご教示ください。