2004/1/1


原文登録先:Fanfiction.net / ID : 372409 (01/0727)
分類:K (旧PG-13)



(ノクターン横丁にて)

 細く甲高い声が、暗い色のマントに覆われた人影から発せられ、狭い店内に響きわたった。
「よかろう、これなら完璧だ……」


 店員は恐怖のあまり手を震わせながら、ひとつかみの釣り銭を差し出した。
「ど、ど、どうぞ、お客様。三ガリオン、七シックル、十三クヌートのお返しです。お買い求めの品はこちらに」
 華やかにラッピングされた小さな箱を手渡す。
「これを贈られたご婦人は、き、き、きっとドキドキなさることでしょうね!」


 狂気じみた高笑いと緑色の閃光だけが、それに対する返答であった――





ヴォルディー最後の戦い
"Voldie's Last Stand"

Authored by Fearthainn
Translation by Nessa F.



 ジニーは大広間でティッシュペーパーの箱を前に置いてグリフィンドールのテーブルに着いていました。その周囲を、心配そうな顔をした生徒たちが取り巻いています。
「ジニー、いい子だから、落ち着けよ。そんなに取り乱すほどのことじゃないだろ!」
 ロンが言いました。優しい口調でしたが、どこかうんざりした声音でもありました。


 ジニーはテーブルの向こう側の端に目をやりました。そこではハリーの黒髪の頭がラベンダー・ブラウンの黄色い頭と触れ合うようにかがめられています。それを見たジニーの目に、新たな涙が込み上げました。
「彼はどうしたって、わたしのことをあ、あ、愛してはくれないのね!」
 ジニーはしくしくと嘆き悲しみました。ハーマイオニーはぎこちなくその肩をとんとんと叩き、周囲の者たちは小声で慰めの言葉をかけました。


「まあ、仕方ないよ。ラベンダーはセクシーだし。それにさ、ジニー。はっきり言って、付き合うならブロンド美人のほうが楽しいよ」
 この軽率なセリフを吐いたため、ロンはハーマイオニーに(そして、髪の色が濃いそのほか数人の女の子たちに)頭をはたかれました。


「いったい、何事だ?」
 別の声が割り込んできました。皆が左右に道をあけると、そこにいたのはドラコ・マルフォイでした。黒いマントを背後にたなびかせ、脚はタイトなレザーパンツに包まれ、髪はまるで彼の頭部から銀色の後光が射しているかのように輝いて、グレーの瞳もきらきらとしています。彼はさっそうとジニーに歩み寄り、その傍らに膝をつきました。
「ジニー、ポッターごときのために泣くんじゃない。あいつはただの馬鹿だ。きみにふさわしいのは、本物の男さ!」


 全員が息を呑みました。ドラコはジニーをさっと抱き上げ、深く口づけたのです。
「ハリーのことなんか、忘れさせてやる!」
 息継ぎをしようと唇を離したときに、ドラコは言いました。


「ああ、ドラコ! もうハリーなんかどうでもいいわ!」
 ジニーは恍惚としてドラコを引き寄せ、もう一度キスをねだりました。うしろにいたロンはモゴモゴと何か言いかけましたが、部屋中の女の子たちにすかさず「シーッ!」と言われて黙り込みました。女の子たちはこのロマンティックな事件に喜んで、クスクスと笑っていました。


 そのとき突然ものすごい音がして、大広間の入り口側の壁一面が吹き飛びました。デスイーター数人からなる小さな集団が、瓦礫の中に立っています。狂ったような笑い声を上げる彼らの中心に、同じく高笑いをする長身の姿がありました。パニックした生徒たちをデスイーターらが気絶させはじめると、広間中に悲鳴がこだましました。ハリーはテーブルの上に飛び上がり、ラベンダーをうしろにかばいました。ラベンダーの蝶々形のヘアクリップがはずれて、その髪が彼女の顔のまわりで魅力的に波打ちました。ジニーはそのようすを見てしかめ面になりましたが、ドラコが何やら大変興味深い行為を彼女の首筋に対して行いはじめたため、気がそれてしまいました。
「こんなことをして、ただですむと思うなよ、ヴォルデモート!」
 ハリーは英雄らしく叫び、この狂った蛇男に向かって杖を突きつけました。


「噛み付いてみるかね、ポッター!」
 ヴォルデモートが叫び返すと、スリザリン生たちはみんな忍び笑いをしました。ヴォルデモートはそれらをすべて無視して、のっしのっしと教員テーブルに向かいました。ダンブルドア先生とマクゴナガル先生の前で足を止め、嘲るように笑います。
「そこを退くのだな、アルバス。今こそ、長らく待ち望んでいたときが来たのだ!」
 ヴォルデモートは高らかに宣言し、マクゴナガル先生に杖を向けました。一瞬のうちにマクゴナガル先生はその魔法で拘束され、持ち上げられてヴォルデモートの目の前に立たされました。そして皆の驚愕をよそに、名前を言ってはいけないあの人は、その場で片膝をついたのです。


「ミネルバ、愛しい人」
 彼はマクゴナガル先生に向かって言いました。
「わしはとうの昔にこの気持ちを伝えておくべきであった。しかしあなたに釣り合う男となるためには、魔法界を掌中に収めねばならぬと思い込んでおった。わしがなした悪事はすべて、本来のわしのようなマグルの若造のままでは、あなたにとって本当にふさわしい相手とは言えぬと思うたがゆえのもの。しかし今、それが過ちであったとわしは悟った。わしは、ありのままの自分の力で勝負することを学ぶべきであった。よって今、これまでの邪悪な行いを悔い改め、あなたにお願いする……わしと結婚してはくれぬか? 見よ、婚約指輪も携えてまいった」


 生徒とデスイーターたちは寄ってたかって身を乗り出し、白金のリングにはめ込まれた大粒のダイヤモンドを見て感嘆しました。


「まあ、ヴォルディー!」
 マクゴナガル先生は叫んで、ヴォルデモートに抱きつきました。
「ただ、申し込んでくれさえすればよかったのよ! ええ、もちろん結婚しますわ!」


 幸福なカップルの誕生を祝して、全員が拍手喝采しました。その喧騒をものともせず、ダンブルドア先生の声が朗々と響きました。



「宴じゃ!」



 まもなく、みんながダンスしたりどんちゃん騒ぎをしたりしはじめました。妖女シスターズが姿あらわしの術で登場し、広間の一画にステージを設けてジャム・セッションを始めました。スリザリン生とグリフィンドール生、レイブンクロー生とハップルパフ生、デスイーターと闇祓いが、手に手を取って踊っています。いさかいは水に流されました。ルシウス・マルフォイはハグリッドに今までの残酷な仕打ちを許してくれるよう懇願し、ふたりは抱き合って泣きました。ジニーとドラコは人目につかない片隅で、息をする余裕もないほど抱き合っていました。双子はパンプキン・ジュースにお酒を混入させたり、おそろいの蛍光ピンクのかつらをかぶってテーブルの上で踊ったりしていました。ダンブルドア先生とスプラウト先生は、瓦礫の合間を縫ってスイング・ダンスをしていました。


「ふうん……」
 ハーマイオニーは、スプラウト先生がとりわけ複雑な体勢でダンブルドア先生の身体を持ち上げるようすを見ながら、考え込みました。
「ダンブルドア先生の下着は紫色だと思ってたのに、まさかオレンジ色とはねえ」
 そのとき、パンプキン・ジュース数杯ですっかり強気になったロンがハーマイオニーを部屋の片隅に連れ去ったため、考察はそこまでとなりました。


 そしてみんなは、いつまでも幸せに暮らしました。特にジニーは幸せでした。なぜって、はっきり言って世界中のハリー・ポッターが束になったって、レザーウェアを着たドラコにはかないっこないのですから。




(おしまい)




「ハリー・ポッター」シリーズ原作の著作権は J. K. Rowling さんに、原作翻訳文(静山社)の著作権は松岡佑子さんにあります。このファンフィクションの翻訳文は、作者である Fearthainn さんの許可をいただいて掲載しています。オリジナルの英文の権利は Fearthainn さんに帰属します。訳文に関する文責は Nessa にあります。訳語や表記・表現の一部を、原作和訳版からお借りしています。
This story was originally written in English by Fearthainn who has kindly given me permission to translate it into Japanese, and I would like to extend my sincere gratitude for her favor.




(本作品について)
ドラジニMLで作者さんが他メンバーから「お題」を出されてお書きになった作品です。
お題の内容は次のとおり。
●ノクターン横丁のシーンから始めること。
●I thought Dumbledore had purple underwear, not orange. というフレーズが入ること。
●以下のアイテムが登場すること。
  蛍光ピンクのかつら
  蝶形のヘアクリップ
  箱ティッシュ
  買い物のお釣りとしてかっきり 3 ガリオン、7 シックル、13 クヌート
  婚約指輪

※翻訳者メモ(1):ちなみに The Harry Potter Lexicon によるとマクゴナガル先生は 1922 生まれ、
トム・リドルは 1927 年生まれで年齢差はわずか 5 歳だ!(←気になって調べた)

※翻訳者メモ(2):レザーパンツは、その筋では有名なドラコ萌えファンフィク
"Draco Trilogy" 以降、ファンフィク界でドラコを演出するための
定番アイテムとなったらしい。「ドラコが何やら大変興味深い行為を
(Draco doing something extremely interesting)」というフレーズも、
同作品第 2 部のドラジニ的名シーンを踏まえた表現ではないかと思います。