2003/5/6

my favorite fanfic

Dracordia (LittleMaggie)
登録先:Fanfiction.net (Link)
登録ジャンル:Drama/Romance
カップリング:ドラコ×ジニー
分類:T (PG-13)/長編 (59,384 words)

【設定】ヴォルデモート打倒後。ドラコ 19 歳、ジニー 18 歳。

【ストーリー】マルフォイ家は凋落していた。ヴォルデモート敗北のショックで精神を病んで寝たきりのルシウス、過去の栄光にすがりつき現実に目を向けようとしないナルシッサ、底をつきかけている財産……。父親の介護に疲れきったドラコは、付添婦を雇う決心をする。やってきたのはジニーだった。


【あれこれ】

 うっわー。作者さん 15 歳だってよ。溜め息。これはもう本当に、すごくよく書けてます。大好き。将来楽しみだわ。


 いや、ディテールで穴はあるんですよ。お金がなくて使用人を雇えなくなったのは分かるけど、もともとタダで働いていたはずの屋敷しもべ妖精(原作でホグワーツに転職したあのコ以外にも絶対いるよねえ?)を置いとけなかった理由が説明されてないとか。イギリス舞台なのに、食べてるものがあんまりイギリスっぽくないとか。ドラコ視点の子供時代の回想に、当時のドラコが聞いていたはずのないルシウスとナルシッサの会話が入ってるとか(まあ、ここは睡眠中に子供の頃のことを夢に見ているという場面なので、多少つじつま合わなくても許せないことはないかな)。


 でもそういうところを差し引いても読んでよかったと思える、非常にクラシカルで上品なラブストーリーでした。単にドラジニというだけでなく広い意味で「愛」なのだ。ドラコが生まれ変わる話ですね。最後のほうでは、ちょっと泣きました(第 23 章でドラコがルシウスに話しかけるとこ)。子供の側から描かれた親子ものに弱いのだ私は。ちなみにタイトル『Dracordia』はラテン語の "Draco (dragon)" と "Cordia (heart)" の合成語だそう。


 要所要所に出てくる色彩への言及が印象的です。物語の冒頭でドラコを目覚めさせるオレンジ色の光。辛気臭いマルフォイ屋敷を背景にまぶしく映えるジニーの黄色いスカーフ、鮮やかな赤毛。ずっと灰色ばかり着ていたドラコが久々に買う青色の服。回想のなかの雪景色に映える赤いコート。そしてラストの 1 文――うまいなあ。


 ところで読んでる間も読了後もずっと頭にあった「クラシカル」という印象はどこから来たんだろう、とつらつら考えてみたんですが。物語そのものがいわゆる「ウェルメイド・プレイ」みたいだということは大きい。それがなんだか、ちょっと昔の小説っぽい印象を与えるのだ。マグル世界との接点がまったくない話だからってのもあるかな。魔法界って、もともと文化も価値観も古そうだし。無力なのにプライド高くて傲慢で典型的な没落貴族っぷりを発揮するドラコと、進歩的とは言いがたい庶民的な家庭でまっすぐ素直に育ったジニー。徐々に近付くふたりと、周囲の偏見に基づく無理解。ありがちな設定、ありがちな展開。でもそれがうまくかみ合って心地よい。そういうふうに書けるのは、実はけっこうすごいことだと思う。


 それと、今この感想文を書きながら、作品をちらちらと読み返していて思ったのは、恋愛描写やセリフまわしもクラシカルというか、おとなしめだってことですね。若い人のファンフィクを読んでると「そりゃ今時のティーンエイジャーなら、こういうのが自然なのかもしれないけどさ……」と鼻白むことが時折あるのですが、ここのドラコはひねくれた甘ったれではあっても非常にお育ちがよろしく、言葉遣いもきれい。英語の流行語や卑語俗語や罵倒語が苦手という人(私だよ)にもおすすめ。


(※作者さんの許可を得て全文翻訳をさせていただきました。)